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【教員対談】大手前大学通信教育部で学べる心理学の多様性

ビジネスはもちろん、友達との普段づきあいや地域コミュニティでの人付き合い、恋愛、子育てまで、さまざまなシーンで活用できるのが心理学の大きな魅力のひとつです。でも、実際に大学でどのようなことを学べるのか、はっきりとイメージできないという方も多いでしょう。

そこで今回は、大手前大学通信教育部で実際に授業を担当しておられる先生方から直接お話をお伺いいたしました。

参加者

大手前大学 経営学部
坂本理郎 教授
大手前大学 経営学部
三宅麻未 講師

心理学が役に立つのはどんな場面?

司会者:大学の授業では、どのようなテーマを扱っておられますか?

坂本:私が取り上げているのはキャリア形成に関連する心理学の理論です。世界が大きく変化しつつある中で、キャリア形成に関連する理論を学ぶことは、自身のキャリアを考えるうえで重要な指針を得ることにつながります。

授業では、心理学や経営学の分野からキャリアに関する重要な理論を取り上げ、自分自身や他者への実用を意識しながら学びます。また、キャリアカウンセリングの基本的技法についても取り上げています。こうした学びを通じて、自分だけの考えに陥ったり、周囲の意見に流されたりすることを防げますし、企業の管理職、教育者、あるいはキャリア・カウンセラーとして、他者のキャリア形成を支援するうえでも役に立つと思います。

三宅:経営学の中でも比較的長いスパンで人の心理と向き合うことになるのが私の専門であるキャリア開発です。キャリアについて考える手法の一つに、社会や組織から期待される「やらなければならないこと(MUST)」と、個人の中にある「やりたいこと(WILL)」、そして「できること(CAN)」のバランスを考えるものがあります。キャリアは自分の心だけで成り立つものではなく、外側にあるものとの関わりから形成されるからです。これらのバランスを考える際に、心の揺らぎとも向き合う必要があります。こうした学びを通じて、社会で働き、生きていくために必要な知識や理論を学修し、またディスカッションを通じて応用的理解を深め、組織を中心とした社会に適用できる力を高めることができると考えています。

 

司会者:心理学の知識はどのような場面で役立つと思いますか?

坂本:心理学の知見は、ビジネスの分野では大いに活用できると思います。営業・販売職であれば顧客心理の理解や信頼関係の構築に役立てることができます。商品開発では形状や色彩、匂い、ネーミングなどにおいて心理学の知識を活用することができます。広報分野ではマスメディアを利用したCMはもちろん、パンフレットや商品陳列時の見せ方でも消費者の購買行動を促すことができると考えられています。さらに、人材育成や能力開発の面でも心理学の知識を身につけておくことは有効です。管理職はもとより、職場のチームワークを高め円滑に業務を進める意味でも、心理学は大きな武器となるでしょう。

三宅:キャリア開発でも心理学の知識は役に立つと思います。特に「自分らしさ」を発見するという意味では自身の心理と向き合うことは重要ですよね。一方で「自分らしさ」というのは、自分のなかだけでイメージするよりも、他者との違いや違和感のなかから見出すことも多いものです。その意味で、普段なら見過ごしてしまうような小さな違和感や引っかかりに、心の目を向けることが、自己理解には重要であると言えるでしょう。

心理士のように心理を使った専門職以外にも、心理学の知見を活用できるところはたくさんあります。経済学ではマーケティングや消費者の行動理解に心理学が多用されますし、キャリア開発や人材育成にもモチベーション心理などが用いられます。心理の基本を押さえておくことで、さまざまなことに応用できると思います。

大手前大学通信教育部で学ぶ「心理学分野の学び」

司会者:通信制で心理学を学ぶことの魅力はどのような点にあると思いますか?

坂本:学修の質という意味では、通信制は通学制と比べてもまったく劣っているところはないと思います。一方で学習環境について触れるならば、通学制とは異なり、幅広い年齢層や職業の人々が集うという違いはあります。その分だけ多様な考えに触れることができ、それが自己理解に良い影響を与えるということはあるかもしれませんね。

これから心理学を学ぼうと考えている方は、まず自分の興味のあるものから始めれば良いと思います。ただし、いきなり心理学の各論や専門性の高い科目を受講するよりも、「入門」的科目から始めるのが良いと思います。

三宅:通信制で学ぶことの最大の魅力は、自己内省の時間を十分に持てるところにあると思います。通学制の大教室の授業では、一部の人の意見や教員の意見が先行して伝わりがちですが、通信制では授業内容を受けて自分自身の考え方を内省し、自分のものとして消化する時間を持つことができます。
スクーリングでは他者との関わり、他者の視点に触れることもできます。これらのバランスを、自由に選択できるのが、本学のよいところではないでしょうか。

心理学を学ぶことにより、他者や自分への理解が深まるのはもちろんですが、自分の心に起こる問題や疑問を客観的に見る視点を得られることが大きいと思います。例えば友人との何気ない会話の中で傷ついた経験があるとしましょう。そのままにしておけば傷ついた経験として心に残り、人間関係にわだかまりを残すかもしれません。でも、心理学を学んでいれば「私が傷ついているのは何らかの過去のトラウマに関係しているかもしれない。それは何だろう」「彼女の表現方法には問題があったが、なぜそのような表現しかできなかったのだろう」など、問題をいくつかの角度から分析することができるようになります。分析することは、問題を自分の心の外に出して向き合う「外在化」の作業となり、この作業自体が心の傷つきから人を守ることにもつながります。学びを得、それを十分な時間をかけて解釈することができる通信制は、心理を学ぶ際に最適な環境かもしれません。

司会者:大手前大学では、「メジャー制」を導入してメジャーごとに履修モデルを示しています。「ビジネス・キャリアメジャー」や「ライフデザインメジャー」の中で心理学を学ぶことの意義をどのように考えておられますか?

坂本:大手前大学の場合、「ビジネス・キャリアメジャー」を軸に据えて学ぶ方は少数で、心理学や日本語教育を学ぶことを軸としながら、ビジネスやキャリアについても学ぶ、という人が多いと思います。

ですが、心理学とビジネス(経営学)の親和性はとても高く、表裏一体の関係と言っても過言ではありません。ビジネスの世界で心理学はどのように生かせるか、それを学ぶことによって、自分自身の労働や消費行動を客観的に理解できるようになります。また、日本語を学ぶ外国の人々の多くが日本で働くことを希望していることを考えると、日本語教員をめざす人にとっても、日本のビジネスやキャリアの現実を知ることは有益だと思いますね。

三宅:「ライフデザインメジャー」の学びの中では、「他者との関係性」や「モチベーション」について考える上で心理学を学ぶことに大きな意義があると考えます。私たちの多くは、常に他者と接点を持ちながら生きています。特に「仕事」となると、家族の外にいる誰かとの関係をうまく維持すると同時に、自分のモチベーションの維持にも目を向けなくてはいけません。「自分の得意」をどのようにして組織で発揮できるかを体感したり、またそれが誰かの役に立つ経験を学生時代に積み重ねることは、人生を豊かにすることにつながると考えます。

大手前大学通信教育部での学びを通じて「自分らしく」輝けるキャリアを拓く

司会者:学生自ら課題を見つけるために行っていることや、授業で工夫しておられることはありますか?

坂本:社会人経験のある学生の多くは、もともと自分なりに学びの目的や課題意識をもって入学されていると思いますので、学生が自ら課題を発見するサポートなどをする必要はあまりないと思っています。しかし、その自分自身の課題を、理論を学ぶことによって、より広く、深く考えられるようになると思います。一方、授業設計については、私が担当する「キャリアの心理学」はスクーリング授業ということもあり、学生同士の交流を促すために、グループやペアで話し合う時間をできるだけ設定するようにしています。他者の考え方を知ることによって、さらに自己の課題に対する理解が深まることを期待しています。

三宅:これは個人的なポリシーになりますが、問いを育てるための工夫として、「小さな問いを歓迎すること」と、学生が自分なりの答えを見つけられるまで「待つ」ということを大切にしています。問いも答えも与えられる教育環境では、「教員が考える正しい答え」にたどり着くため問いを逆算する思考が働きます。しかし、それでは学びになりません。この「呪縛」を解くために、どんなに小さな違和感や疑問も大切に取り扱って深掘りするようにしています。そして唯一の正しい答えはないこと、それぞれの答えがあって良いこと、そのために他者との関りを通じて多様な問いに触れることが重要だと伝え、実践しています。

また、授業ではみんなにとって話しやすいテーマを設定すること、互いの意見の違いを尊重する心理的安全性をクラス内に醸成させることを意識しています。時にはオンラインアンケートツールを用いて匿名で意見を投稿してもらい、そこから議論を広げるなど、小さな声を積極的に拾い、議論する工夫を取り入れています。

司会者:授業のなかで、学生の成長や変化を感じることはありますか?

坂本:私が担当する「キャリアの心理学」では、キャリア心理学の理論を説明する際に、自分自身への応用をしてもらうようにしています。例えば、アメリカの心理学者であるドナルド・スーパー博士は、「キャリアは生涯を通じて発達する」とし、キャリアを「人生のある年齢や場面の役割の組み合わせ」と捉えました。そして人は生涯にわたってさまざまな役割(ライフロール)を担うとし、生涯のキャリアをライフ・キャリア・レインボーとして表現しました。
この理論を用いて、自分が仕事およびそれ以外の多様な役割を経験しており、それらの役割が相互に影響しあっていることや、年齢や環境によって役割の組み合わせが変化していることを、実際に自身のライフ・キャリア・レインボーを描きながら理解します。このように、学んだ理論を自分自身に応用してみる作業が、学生自身の自己受容やキャリア・デザインにつながることも多いようですね。

また、単位修得試験では、学んだ理論を用いて自分自身のキャリアや人生を分析してもらっています。そこで語られるそれぞれの人生の艱難辛苦、喜怒哀楽に驚嘆させられることはよくあります。そして、それでも前を向いて歩こうとしている受講生の皆さんの強さや美しさに、いつも感動させられています。

三宅:私の受け持つ授業では「他者の考え方に積極的に触れる」ことを推奨しています。また、共通テーマから自身の経験や考えを共有することを大切にしています。自分の中から生まれるインスピレーションには限りがあるため、その枠を越えるために他者との関わりは重要です。他者との関わりの中にこそ、自身のこだわりや価値観が見え隠れし、その観点が生き方のヒントになると思います。

私自身も新しい視点に触れることがよくあります。例えば、私が授業中にポロリと話した私自身の悩みが受講生の共感を呼び、クラスの学びにつながった時などですね。学びの場では、教える側と教わる側が上下関係ではなく、対等な関係で対話するからこそ相互作用が広がるものだと思います。

司会者:心理学を学ぶことで、学生のキャリア選択にはどのような変化があると思いますか?

坂本:私が担当する「キャリアの心理学」は、ある程度のキャリアを有している人にとっては、これまでの自分のキャリアや人生を振り返るきっかけになると思います。「これで良かったのだ」と自己受容する人もいれば、これまでとは異なるキャリア・チェンジのきっかけを見つける人もいるでしょう。また、キャリアの入り口に立つ若い学生さんにとっては、これからの自分のキャリアや人生をデザインするうえでのヒントを得られるだけでなく、年長の先輩学生との交流によって、理想とするキャリアモデルに出会ったり、アドバイスをもらったりすることもあるようです。

三宅:キャリアは究極的には個人の中で決定するものかもしれませんが、その過程には様々な人との関りや対話が影響しています。つまり私たちがキャリアについて考える時、その背景には多様な他者との関わりが介在しているのです。私は、こうした「多様な他者との関わりを通じてキャリアを考えるプロセス」を研究しています。幅広い世代の学生が集い、「人間関係」や「モチベーション」といった一筋縄にはいかないテーマについて語り合うことで、キャリアの選択を豊かにできるのではないかと思っています。

授業では、ゲストをお招きして、ゲスト自身の人生の節目における選択について語っていただくこともあります。人は、自分が体験したり、教えられたりし学ぶ以外にも、他者の振る舞いや行動を見て学ぶ「代理学習」ができます。ゲストが語った人生の節目での選択は、学生に自分ならどう選択するか、誰に相談するか、何を大切にしたいと考えるか、気づくきっかけを与えることもできるのではないかと思っています。

大手前大学通信教育部ならではの学び

司会者:大手前大学通信教育部の学びにはどのような特徴があると感じますか?

坂本:本学で学ぶ科目を選ぶ際は、まず自分の興味のある分野から選択するので良いと思いますが、いきなり難しい科目や専門性の高い科目ではなく、まずは入門的な科目から受講されると良いと思います。本学では、授業内容について基礎から応用までの発展度合いを100~400の数字で表した「レベルナンバー」を各講義ごとに示しています。これは難易度を表すものではなく履修する順序の参考にしてもらうためのものですが、レベルナンバー100の科目から選択すると良いでしょう。

三宅:大手前大学通信教育部の大きな魅力のひとつは自由選択制だと思います。何を学んだら良いかわからないと感じたり、関心の幅を広げすぎたりしてしまうこともあるかと思いますが、まず興味関心に合わせた履修モデルでスタートを切って、関心の広がりに合わせてカスタマイズしていくこともできます。

また、学修アドバイザーなど、客観的な視点からアドバイスをもらえるのも本学のカリキュラムの良いところではないでしょうか。

また、様々な分野で実務家として活躍されておられる講師陣も魅力だと思います。心理学分野でも、臨床心理だけでなく、キャリアの心理や学習の心理など、幅広い視点で学ぶことができます。すでに持っている関心のかけらに、心理学などの新しい学びの分野を掛け合わせてデザインすることができるのが魅力です。

学修にあたっては、履修モデル等をもとに履修をはじめ、どのようなことに関心があるのかが見えてきたら、何のためにこの科目を選んでいるかをある程度自分の中で明確にして履修することをお勧めします。そうすることによって、学びの中から自身の生き方のヒントになるものを抽出できるようになると思います。

司会者:これから大手前大学で学ぼうと考えている方にメッセージをおねがいします。

坂本:自分自身を含む人間の心理や行動に対して、皆さんが日常生活の中で疑問に感じておられることが、心理学を学ぶことによって、客観的・体系的に理解できるようになります。そして、客観的・体系的に理解できるようになれば、ある程度は今後のことを予測しやすくなり、よりよい生き方・働き方や職業選択につながると思います。大手前大学に入学されたら、「キャリアの心理学」をぜひ受講してください。

三宅:自分らしい生き方は、誰もが「いつかは」実現したいと憧れるものです。しかし、自分ひとりでは想像し考えられる未来のオプションは、さほど大きくありません。あえて視野を広げようとしなければ、働くロールモデルは、親、兄弟、同僚等の限られた人になるでしょう。しかし、学びの場に集まる多様な関係性の中でこそ、これまで考えもしなかった人生のオプションが生まれ、それが自分らしさの発揮に重要な示唆を与えてくれるかもしれません。一人で考えるより、少し勇気を出して、一歩踏み出した先に、きっと、自分らしさが見つかるはずです。

人生のどのようなタイミングでも学びは人生を豊かにしてくれます。働き方に悩んだ時、生き方の道を見つけたい時、何かスキルを身につけたいなど、モチベーションは人それぞれです。多様な関心が緩やかに、自由につながるのが、通信制の学びの美しさだと思います。皆さんのご入学をお待ちしています。